コントロール不能が面白い『ゴーン・ガール』
- 2014/12/15
- 16:19

デヴィッド・フィンチャー最新作ということで、封切り日に観たかったが、ようやく鑑賞。
事前情報は予告編のみ。
今のクリストファー・ノーランのように、かつてはデヴィッド・フィンチャーというとハッタリというか中身の無いケレン味だけの監督かと思っていたが、『ゾディアック』から、毎作ケレン味が取れ、今作『ゴーン・ガール』に至ってはいつもの派手なオープニングクレジットさえ無くなり、落ち着いた作風になった。
ハッタリだとしても、あのオープニングクレジットが無くなったのは残念。『ファイトクラブ』なんてそれを爆音大画面で観るためだけに去年のカナザワ映画祭で爆音上映したのに。
夫に不満を抱く妻が、殺人事件を偽装して失踪。
夫を陥れる。
単純にそういう話なのだが、上手な監督にしかできない細かいキャラクター描写がこの作品には満載で面白い。
微妙に嫌い合う義妹、義姉や、義理の両親との距離感。
ゲーム三昧の無職夫(パッドでFPSというところがゲーマーとしても非常に中途半端)。
他人の些細な一言にカチンと来て些細な復讐をする場面。
こいつ気に入らねえと感じた時に出る些細な態度。
FB用の写真撮らせてくれと近寄ってくる微妙にブスな女。
生真面目な警察のオバサン(同じような役で『ウォーキング・デッド シーズン5』にも登場)など。
こういうのが上手に演出されているだけで派手なことは起きなくても映画は面白い(例、ダルデンヌ兄弟、トッド・ソロンズ、万田邦敏)。
また、全てを裏から操る悪女の蜘蛛女モノと思いきや、そうはならないところも面白い。
完璧に全てをコントロールしているはずの悪女の妻が、ショボいチンピラカップルに有り金全部を奪われて、枕に顔を埋めて叫ぶところや、宿がなくて軽四で寝ているところを注意されるシーンなど可愛げがある。
賢いのだが行き当たりばったりで途中から何が目的かも分からなくなってくる木嶋佳苗のような女だ。
ベン・アフレック扮するダメ無職夫に惚れたのはどうやら本当で、テレビで「愛している、帰ってきてくれ」と訴えるベン・アフレックに惚れ直して金づるの元恋人の富豪(『スターシップ・トゥルーパーズ』でエスパーの情報部将校を演じていたアイツ。今回は人の心を読めなかったようだ)を殺してしまったりする。
惚れれば損得を考えずに素直に行動するところがやはり男を惚れさすのだろう。
この悪女妻と天然夫の行動で全米が振り回される様子はコメディ寸前だ。
しかも本人たちは無自覚。
一番自覚しているはずのこの悪女も全部を思い通りにしようとしながら、自分が本当に何を欲しいのか(カネが目的ではないようなので、純粋に愛?ならこんな小細工はやめるべきだ)も分からず、自分自身さえコントロールできていない。
「奇妙な女」だ。
「恋愛は美しき誤解であり、結婚は惨憺たる理解である」
最後は、別れたがる夫を引き止めるために精子を勝手に採取して無理やり妊娠し、赤ん坊を人質にして引き止める。
この辺のやり取りでベン・アフレックは妻を頼れる肝っ玉母さんと思ったのか、少し惚れ直したようだ(それとも完敗したのか?)・・・。
ただ、この最後に悪女が勝利する(?)「全ては私の手の内よ」的なオチで通常の蜘蛛女モノになってしまった気がする。
所詮誰も世界をコントロールすることはできない(陰謀論者には受け入れられない事実だろう)ので、映画監督もこういうオチを付けて映画をコントロールしよう(収めよう)とせずに何か映画や観客を放り出すようなオチが欲しかった(しかし、そうはしないところが出世する監督のコツである)。
そういえば、ポール・バーホーベンの『氷の微笑』は見事に放り出してくれたのを思い出した。
文頭のGIF画像は映画の最初と最後のカット。
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