大恐怖本 ノーマン・M・ネイマーク「スターリンのジェノサイド」
- 2015/05/06
- 20:27
20世紀最大の怪物スターリンの犯したジェノサイドをダイジェストで紹介している本。新書二冊分くらいの分量なので4~5時間あれば読めるが、内容自体はとても重い。うわ~…、これは酷い…とこの本でスターリンに興味がわいた人は他にも出ているスターリンの評伝を読んでみるといい。スターリンとヒトラーについては長年評伝などを読み続けているのだけれど、ヒトラーは若干天然が入っているのでカワイイところもあるが、狡猾なスターリンの方が純粋悪というイメージがある。
スターリンは約20年の間に「人民の敵」というレッテルをソビエト国内の各階級の人々、各民族に貼ってソ連内と隣接国の少なくとも2000万人以上を殺した。まさにスターリンこそ「人民の敵」だった。
章立てで、「富農撲滅」「飢餓殺人」「民族の強制移住」「大恐怖政治」などスターリンの行った虐殺を紹介している。それぞれ何百万人もがシベリアに流刑されて30%が一年以内に死んだとか、富農とされた農民が何十万人銃殺刑にされたとか数の規模が大きすぎて全く想像できない世界だが、流刑地で食料不足のため人肉食が横行したとか、拷問で18時間もムチで打ち据えたとか詳細も書かれている。いやあ、スターリン統治下のソビエトってこの世の地獄だね。今の北朝鮮もそうか。金日成はスターリンの弟子だもんな。「人民のための革命」とか常に枕詞で付ける共産主義って一体何なんだろうか? スターリンは日本人も50万人くらい拐って奴隷労働をさせ、そのうち10%死亡させた日本の仇でもある。ちなみに青年将校だった大伯父さんもこれで死んだらしい。憎っくきスターリン。恐ろしいことにロシアは未だにスターリンを崇めているこの時代と地続きの国だ。
元々ジェノサイドは第二次世界大戦終戦間近に作られた造語で、戦後のジェノサイド条約では連合国のソビエトに気を使って、ソビエトが行った「社会階級的、政治・イデオロギーまたは文化的な集団に対する虐殺」は条文から除外された。この件にかなりの憤りを持ってアメリカ人のこの著者は本を書いている。戦後に制定されたジェノサイド条約が呪縛となって、共産圏の国々が行った桁違いの虐殺は過小評価されているそうだ。未だにジェノサイドではないと云う学者も大勢いるらしい。確かにユダヤ人虐殺マシーンのドイツ第三帝国を滅ぼしたのはソ連だ(アメリカはドイツが負け確してから参戦したに過ぎない。なのに、ハリウッド映画ではアメリカがナチスを倒したみたいに描いていて、ロシア人は大層怒っている。現在のウクライナ紛争も完全にロシアの侵略行為だけれど、第二次大戦で2200万人も死亡者を出して守ったソ連の領土が知らないうちに西側ヨーロッパに綺麗に静かに侵食されていてプーチンも焦って怒っているのだろう、多分)。狂ったナチスを倒したソ連も狂気の妄想と暴力で自国民を殺しまくった。狂暴で強大なキチガイ国同士の争いなので独ソ戦は面白い。このようにソ連の功績でドイツによるユダヤ人虐殺は阻止できたので、ソ連が行ったソ連人民などに対する虐殺は大目に見ようという意見が多勢らしい。
対してこの著者は「スターリンはジェノサイドを行った」と断言する。不思議なことにスターリンの弟子であり、それ以上の虐殺を中国人民や周辺民族に行った(一説には5~6000万人殺害…全く想像できない規模だ)、中国で一番残虐な皇帝・毛沢東の名前はこの本の中で一回しか出てこない(ポル・ポトや金日成については何度か出てくる)。何か政治的事情で中国に気を使ったのだろうか? それはジェノサイド条約に「社会階級的、政治・イデオロギーまたは文化的な集団に対する虐殺」を入れなかった政治的配慮と同じなのでは? というかアメ公、コラ! お前ら、空爆で今まで何人殺した? 無差別虐殺はいいのかコラ?
このように色々と考えさせられる本だ(ジェノサイド条約の定義を読むと日本は関東大震災の朝鮮人虐殺以外はジェノサイドを行っていないことになるなどなど)。翻訳者のあとがきも長めで、かなりの熱を持って書かれている。スターリンや共産主義が本当に嫌いなのだろう。ヒトラーの告発はもういい加減いいから、スターリンや毛沢東も断罪しろと書かれていた。それには同意。ロシア(ソビエトが崩壊したとはいえ)も中国も未だにスターリンや毛沢東を英雄として称えている国なので恐ろしい…。
この本を読んでいる最中に「1915」というトルコ人によるアルメニア人虐殺(この虐殺も第二次大戦は中立国だったトルコに気を使って不問にしたらしい)をテーマにした映画を見た。どんな恐ろしい虐殺行為が描かれるのかと怖いもの見たさで見たら、アルメニア人虐殺を描いた舞台劇を巡るドラマだった…。アルメニア人虐殺は未だにトルコも認めていないので、その舞台劇を中止にしようと多数のトルコ人が抗議をする場面や炎上が怖くて舞台を中止にしようとする劇場側の日和見主義などが描かれ、多重性のある脚本だったけど、ヒドい虐殺シーンを怖いもの見たさで期待していた自分としてはかなりの期待ハズレ作だった…。

多分良い映画だと思うので見たい人はどうぞ…。虐殺から百周年ということでアルメニア政府からも資金が出ているようだけれど、ここは凄惨かつ陰惨な虐殺シーンで、トルコ人を悪鬼のように描けばプロパガンダ(最低のバカにも理解できてこそのプロパガンダ)として全世界に広めれたのに…。少し高級(?)過ぎる映画だと思う。舞台を映画にするとどうしてもインテリ向けみたいになってしまうのはどうしてなのだろうか?
スターリンのジェノサイド
posted with ヨメレバ
ノーマン・M・ネイマーク みすず書房 2012-09-11
スターリンは約20年の間に「人民の敵」というレッテルをソビエト国内の各階級の人々、各民族に貼ってソ連内と隣接国の少なくとも2000万人以上を殺した。まさにスターリンこそ「人民の敵」だった。
章立てで、「富農撲滅」「飢餓殺人」「民族の強制移住」「大恐怖政治」などスターリンの行った虐殺を紹介している。それぞれ何百万人もがシベリアに流刑されて30%が一年以内に死んだとか、富農とされた農民が何十万人銃殺刑にされたとか数の規模が大きすぎて全く想像できない世界だが、流刑地で食料不足のため人肉食が横行したとか、拷問で18時間もムチで打ち据えたとか詳細も書かれている。いやあ、スターリン統治下のソビエトってこの世の地獄だね。今の北朝鮮もそうか。金日成はスターリンの弟子だもんな。「人民のための革命」とか常に枕詞で付ける共産主義って一体何なんだろうか? スターリンは日本人も50万人くらい拐って奴隷労働をさせ、そのうち10%死亡させた日本の仇でもある。ちなみに青年将校だった大伯父さんもこれで死んだらしい。憎っくきスターリン。恐ろしいことにロシアは未だにスターリンを崇めているこの時代と地続きの国だ。
元々ジェノサイドは第二次世界大戦終戦間近に作られた造語で、戦後のジェノサイド条約では連合国のソビエトに気を使って、ソビエトが行った「社会階級的、政治・イデオロギーまたは文化的な集団に対する虐殺」は条文から除外された。この件にかなりの憤りを持ってアメリカ人のこの著者は本を書いている。戦後に制定されたジェノサイド条約が呪縛となって、共産圏の国々が行った桁違いの虐殺は過小評価されているそうだ。未だにジェノサイドではないと云う学者も大勢いるらしい。確かにユダヤ人虐殺マシーンのドイツ第三帝国を滅ぼしたのはソ連だ(アメリカはドイツが負け確してから参戦したに過ぎない。なのに、ハリウッド映画ではアメリカがナチスを倒したみたいに描いていて、ロシア人は大層怒っている。現在のウクライナ紛争も完全にロシアの侵略行為だけれど、第二次大戦で2200万人も死亡者を出して守ったソ連の領土が知らないうちに西側ヨーロッパに綺麗に静かに侵食されていてプーチンも焦って怒っているのだろう、多分)。狂ったナチスを倒したソ連も狂気の妄想と暴力で自国民を殺しまくった。狂暴で強大なキチガイ国同士の争いなので独ソ戦は面白い。このようにソ連の功績でドイツによるユダヤ人虐殺は阻止できたので、ソ連が行ったソ連人民などに対する虐殺は大目に見ようという意見が多勢らしい。
対してこの著者は「スターリンはジェノサイドを行った」と断言する。不思議なことにスターリンの弟子であり、それ以上の虐殺を中国人民や周辺民族に行った(一説には5~6000万人殺害…全く想像できない規模だ)、中国で一番残虐な皇帝・毛沢東の名前はこの本の中で一回しか出てこない(ポル・ポトや金日成については何度か出てくる)。何か政治的事情で中国に気を使ったのだろうか? それはジェノサイド条約に「社会階級的、政治・イデオロギーまたは文化的な集団に対する虐殺」を入れなかった政治的配慮と同じなのでは? というかアメ公、コラ! お前ら、空爆で今まで何人殺した? 無差別虐殺はいいのかコラ?
このように色々と考えさせられる本だ(ジェノサイド条約の定義を読むと日本は関東大震災の朝鮮人虐殺以外はジェノサイドを行っていないことになるなどなど)。翻訳者のあとがきも長めで、かなりの熱を持って書かれている。スターリンや共産主義が本当に嫌いなのだろう。ヒトラーの告発はもういい加減いいから、スターリンや毛沢東も断罪しろと書かれていた。それには同意。ロシア(ソビエトが崩壊したとはいえ)も中国も未だにスターリンや毛沢東を英雄として称えている国なので恐ろしい…。
この本を読んでいる最中に「1915」というトルコ人によるアルメニア人虐殺(この虐殺も第二次大戦は中立国だったトルコに気を使って不問にしたらしい)をテーマにした映画を見た。どんな恐ろしい虐殺行為が描かれるのかと怖いもの見たさで見たら、アルメニア人虐殺を描いた舞台劇を巡るドラマだった…。アルメニア人虐殺は未だにトルコも認めていないので、その舞台劇を中止にしようと多数のトルコ人が抗議をする場面や炎上が怖くて舞台を中止にしようとする劇場側の日和見主義などが描かれ、多重性のある脚本だったけど、ヒドい虐殺シーンを怖いもの見たさで期待していた自分としてはかなりの期待ハズレ作だった…。

多分良い映画だと思うので見たい人はどうぞ…。虐殺から百周年ということでアルメニア政府からも資金が出ているようだけれど、ここは凄惨かつ陰惨な虐殺シーンで、トルコ人を悪鬼のように描けばプロパガンダ(最低のバカにも理解できてこそのプロパガンダ)として全世界に広めれたのに…。少し高級(?)過ぎる映画だと思う。舞台を映画にするとどうしてもインテリ向けみたいになってしまうのはどうしてなのだろうか?
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