あれ？戦争映画としては…『アメリカン・スナイパー』

イラク戦争で１６０人以上を射殺した実在のエリート・スナイパーをクリント・イーストウッド御大が映画化。
原作本は数ヶ月前に購入したまま積読中。

ネイビー・シールズ最強の狙撃手

posted with ヨメレバ

クリス カイル,ジム デフェリス,スコット マクイーウェン 原書房 2012-04

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7net

予告編は子どもを撃つかどうかで悩むシーンを見せていたので、そういう判断に悩む狙撃手を描いた善悪の彼岸テーマの映画かと思って見たら、そうでもなかった。


主人公のクリス・カイルは３０歳を過ぎてカウボーイからSEALsに志願し転職。
映画だと、初陣は米軍の戦車部隊を攻撃しようとする母子の狙撃。母子射殺で後味の悪い思いをするが、そんなに悩んでいる風でもない。車で犬猫を轢いたくらいかそれ以下の悩み方。


冒頭の射撃訓練シーンで的の近くにいた可哀想な蛇を主人公が無意味に射殺するシーンがあるのだが、動物を無意味に殺す人間は、割と人間も躊躇なく撃つと思う。幼い頃から狩りで鹿を撃っていた描写もあるので、あんまりこの人には人間を撃つハードルは高くなかったのではないだろうか。そもそも、アメリカ人にとっては戦闘地域の地元民など野蛮人扱いだし。なので、予告編で見たこの作品の印象が冒頭ですでに、「ああ、そういう映画ではないのか」と分かった。だから、後半に出てくる、RPGを拾った地元民の子どもを撃つかどうか迷うシーンではとても今さら感。結局、その子どもはRPGを捨てるので、撃たずに済むのだが。でも、ヌルいなあ。実際のファルージャでは米軍は「Shoot on Sight」で動くものは何でも撃っていたという。
映画では倫理性の問題は、「仲間を助けるために殺す」というヤンキー的倫理感でストップ。それほど踏み込まない。
『ブラックホーク・ダウン』のデルタフォース隊員と同じ理屈だ。

戦争映画としても、特に目新しい戦闘描写は全くない凡作である。期待はずれだった『ローン・サバイバー』や『ネイビー・シールズ』とさほど変わらない。
映画用に演出されたおかしなシーンの多さも気になった。
まず、冒頭の母子射殺シーン、その母子は爆弾を持って戦車部隊のすぐ前まで来ているので、その母子を射殺するのは狙撃手の仕事ではないと思うのだが…。戦車の機銃でなぎ払うか、近くにいる歩兵が撃てば済む。

また、黒い服を着た「悪い」ムスリムが、英語のわかる「善い」ムスリムの家族をさらって、広場の真ん中で拷問をしたり、殺したりするのだが、そんなことを米軍と戦闘中の現場でわざわざするだろうか？　『ローン・サバイバー』でも同じようなシーンが出てきたので、西部劇に元型でもあるのだろうか。
その悪いムスリムのアジトに生首がゴロゴロしていたりと、悪いムスリムの残虐性だけが過剰に演出されていたので、えらく古臭い戦争映画に見えた。
最後の籠城戦での少数の米兵VS圧倒的多数の武装勢力との戦闘も、「ああ、またか…」としか思えず、さすがに眠くなった。

そして、現実では狙撃銃で殺された遺体は、スイカ割りのようにとても無惨な状態になるのだが、この作品では穴一つ開くだけの古臭い演出。そこを強調すると主人公の暴力性が過剰になってしまって、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』みたいなバランスになるので配慮したのだろうか？

あと、仕事中に嫁に電話し過ぎ…（実際どうだったかは原作を読んでないので不明）。


むしろ、イラクで１６０人殺したエリート兵士が、アメリカで同じアメリカ人の負傷兵に射殺されるという事実が、下手な創作よりも、とても皮肉な暗示で教訓があるように思う。
『フォックスキャッチャー』もそうだったが、実話を元にしながらも実話の持つ言葉に出来ない不可解さや曖昧模糊さを活かさずに、優等生が書いた作文のように分かりやすい「真面目」作品にしてしまっては面白くない。

元オリンピック選手という敵側のスナイパーが出てくる画面と、主人公がアメリカで妄想を起こして狂暴になる場面だけが締まっていた。ライバルのスナイパーはシリア人の傭兵なのだが、イラクの戦闘に参加している動機が描かれないので、その不可解さが良かった。


先の『ジャージー・ボーイズ』は何とも気持ち悪い作品で首を傾げてしまったが、近頃クリント爺さんはどうしたんだろう？　ハードワークで疲れているのだろうか？ ちょっと期待し過ぎたかもしれない。予告編の方が面白かった。。




クリス・カイルと同じ地元テキサスでスナイパーといえばコイツ。銃社会は恐ろしいですね。