メキシコ麻薬戦争の周辺文化ナルコ・クルトゥーラのドキュメンタリー『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』
- 2015/02/28
- 21:34
原題の「Narco Cultura」が表しているようにメキシコ麻薬戦争そのものを記録したドキュメンタリーではなく、その周辺文化の「ナルコ・クルトゥーラ」を記録したドキュメンタリー。なので作品自体には深刻さは感じられない。だから、これを見てメキシコ麻薬戦争を深刻に語られても困る。

アメリカの西海岸でナルコ・コリドというジャンルを演奏するミュージシャンたちや、アメリカとメキシコの国境の街、エルパソとシウダ・フアレスが描かれる。

ナルコ・コリドのバンド連中がバカ丸出しでそういう意味では楽しめる。カルテルの依頼でボスを称える歌(コリド)を作っている御用ミュージシャンたち。しかし、彼らも所詮アメリカ人なので、たまにメキシコに招待されてコカインをやりまくったり、装飾がゴテゴテされた銃器(デコ・ガン?)を試射したりして喜ぶだけのメキシコ麻薬戦争的にはお上りさんたちだ。




この映画を見て驚いたのはエルパソとシウダ・フアレスの国境だ。この二つの街は隣接というか、一つの街がフェンスで区切られていてほとんど西ベルリンと東ベルリンのようだ。この作品でこの風景の画が唯一驚いたし、面白かった。向こう側の高層ビル街がアメリカで、こちら側のバラック街がメキシコ。あまりにも分かりやす過ぎる貧富の差。まるで大阪天王寺駅前だ。

何かが起きそうなシウダ・フアレスの街並み。

国境を挟んですぐ向こう側のエルパソには整然とした小綺麗なショッピングモールが。

2008年のカナザワ映画祭で、メキシコ麻薬戦争以前のシウダ・フアレスのドキュメンタリー『消えた少女たち』(2001年)を上映したのだが、このドキュメンタリーで描かれたシウダ・フアレスの未解決少女連続殺人事件(犠牲者は数百人)も起きて当然だなとこの風景を見て思った。アメリカから殺人マニアが何人も越境して来て(アメリカ人がメキシコに行くのはとても簡単だが、メキシコ人がアメリカに行くのはとても難しい)殺してはアメリカにトンボ帰りを繰り返していたのではないか?

というように国境の街の景色が見所だ。ナルコ・クルトゥーラに関しては「しょうがねえな(苦笑)」としか感じれない。しかし、メキシコにはカルテル御用聞きの映画プロデューサーが製作したビデオ撮りのカルテル映画が無数にあるらしく、それは掘ってみたいジャンルだ。


『スカーフェイス』パクリ映画。

あと、フアレス関連で今一番気になる映画。ロ、ロボット? フアレスの治安をロボットが守るのだろうか…?


そういえば、カナザワ映画祭2011でメキシコ麻薬戦争を描いた世界初?のドキュメンタリー『メキシコ麻薬戦争 8マーダーズ・ア・デイ』を上映したのだが、超絶クズ映画で観客を震撼させた問題作だった…。2011年当時、暴力を描いたドキュメンタリー特集でメキシコ麻薬戦争はロボット兵器やアフガン戦争と並び外せないトピックだったので、仕方なく上映した。最大限盛って宣伝した(©東宝東和)のでその時見に来たお客さんには「ゴメンナサイ」とここで言っておきたい…。これはビビリの監督が夜のフアレスの街を彷徨くだけで、何も起きず。唯一のハプニングが乞食に絡まれるだけというトンチキ作品だ。この中国系の監督は上映料を吹っ掛けてきたり、「おれを日本に呼べ」だの面倒くさい人物だった…。

ということで、メキシコ麻薬戦争に関してはシリアス作品が『皆殺しのバラッド』も含めて去年辺りまでなかったのだが、ネット系のニュースサイト「VICE NEWS」で優れたドキュメンタリーが配信されているのでそれらをここで紹介したいと思う。
メキシコの殺人市長が警官を使って高校生たちを大量虐殺した事件のドキュメンタリー「The Missing 43: Mexico's Disappeared Students」。警官がスクールバスを止めさせて、撃ち始める様子が高校生の携帯で記録されており、その映像が怖すぎる。
こちらはカルテルの扱う商品が麻薬を超えて石油にまでエスカレートしていることを描いたドキュメンタリー「Mexican Oil and Drug Cartels: Cocaine & Crude」。勝手にパイプラインを引いて石油を盗んでいる。最早、麻薬カルテルではなく、オイル・カルテルだ。
こちらはまだ未見だが、カルテルとモルモン教徒の対決を描いた「The Mexican Mormon War: Drug Cartels vs. Mormons」
また、昨年ようやくメキシコ麻薬戦争のノンフィクションが日本でも出版された。メキシコ麻薬戦争に興味のある人なら必読の書だろう。これを読むとよく分かるのだが、カルテルは犯罪組織というよりも地方軍閥と呼んだほうがしっくりくる存在だ。メキシコは独裁制をやめてから中央政府がほとんど機能していないらしい。どうも南米とか中東では民主制はカオスを引き起こすだけなので、平和を望むなら独裁制が最適なようだ。
最近はイスラム国関連のシリア・イラク情勢がカオス過ぎて、メキシコ情勢は影が薄くなってしまったが、まだまだ追い続けたいトピックだ。
予告編

アメリカの西海岸でナルコ・コリドというジャンルを演奏するミュージシャンたちや、アメリカとメキシコの国境の街、エルパソとシウダ・フアレスが描かれる。

ナルコ・コリドのバンド連中がバカ丸出しでそういう意味では楽しめる。カルテルの依頼でボスを称える歌(コリド)を作っている御用ミュージシャンたち。しかし、彼らも所詮アメリカ人なので、たまにメキシコに招待されてコカインをやりまくったり、装飾がゴテゴテされた銃器(デコ・ガン?)を試射したりして喜ぶだけのメキシコ麻薬戦争的にはお上りさんたちだ。




この映画を見て驚いたのはエルパソとシウダ・フアレスの国境だ。この二つの街は隣接というか、一つの街がフェンスで区切られていてほとんど西ベルリンと東ベルリンのようだ。この作品でこの風景の画が唯一驚いたし、面白かった。向こう側の高層ビル街がアメリカで、こちら側のバラック街がメキシコ。あまりにも分かりやす過ぎる貧富の差。まるで大阪天王寺駅前だ。

何かが起きそうなシウダ・フアレスの街並み。

国境を挟んですぐ向こう側のエルパソには整然とした小綺麗なショッピングモールが。

2008年のカナザワ映画祭で、メキシコ麻薬戦争以前のシウダ・フアレスのドキュメンタリー『消えた少女たち』(2001年)を上映したのだが、このドキュメンタリーで描かれたシウダ・フアレスの未解決少女連続殺人事件(犠牲者は数百人)も起きて当然だなとこの風景を見て思った。アメリカから殺人マニアが何人も越境して来て(アメリカ人がメキシコに行くのはとても簡単だが、メキシコ人がアメリカに行くのはとても難しい)殺してはアメリカにトンボ帰りを繰り返していたのではないか?

というように国境の街の景色が見所だ。ナルコ・クルトゥーラに関しては「しょうがねえな(苦笑)」としか感じれない。しかし、メキシコにはカルテル御用聞きの映画プロデューサーが製作したビデオ撮りのカルテル映画が無数にあるらしく、それは掘ってみたいジャンルだ。


『スカーフェイス』パクリ映画。

あと、フアレス関連で今一番気になる映画。ロ、ロボット? フアレスの治安をロボットが守るのだろうか…?


そういえば、カナザワ映画祭2011でメキシコ麻薬戦争を描いた世界初?のドキュメンタリー『メキシコ麻薬戦争 8マーダーズ・ア・デイ』を上映したのだが、超絶クズ映画で観客を震撼させた問題作だった…。2011年当時、暴力を描いたドキュメンタリー特集でメキシコ麻薬戦争はロボット兵器やアフガン戦争と並び外せないトピックだったので、仕方なく上映した。最大限盛って宣伝した(©東宝東和)のでその時見に来たお客さんには「ゴメンナサイ」とここで言っておきたい…。これはビビリの監督が夜のフアレスの街を彷徨くだけで、何も起きず。唯一のハプニングが乞食に絡まれるだけというトンチキ作品だ。この中国系の監督は上映料を吹っ掛けてきたり、「おれを日本に呼べ」だの面倒くさい人物だった…。

ということで、メキシコ麻薬戦争に関してはシリアス作品が『皆殺しのバラッド』も含めて去年辺りまでなかったのだが、ネット系のニュースサイト「VICE NEWS」で優れたドキュメンタリーが配信されているのでそれらをここで紹介したいと思う。
メキシコの殺人市長が警官を使って高校生たちを大量虐殺した事件のドキュメンタリー「The Missing 43: Mexico's Disappeared Students」。警官がスクールバスを止めさせて、撃ち始める様子が高校生の携帯で記録されており、その映像が怖すぎる。
こちらはカルテルの扱う商品が麻薬を超えて石油にまでエスカレートしていることを描いたドキュメンタリー「Mexican Oil and Drug Cartels: Cocaine & Crude」。勝手にパイプラインを引いて石油を盗んでいる。最早、麻薬カルテルではなく、オイル・カルテルだ。
こちらはまだ未見だが、カルテルとモルモン教徒の対決を描いた「The Mexican Mormon War: Drug Cartels vs. Mormons」
また、昨年ようやくメキシコ麻薬戦争のノンフィクションが日本でも出版された。メキシコ麻薬戦争に興味のある人なら必読の書だろう。これを読むとよく分かるのだが、カルテルは犯罪組織というよりも地方軍閥と呼んだほうがしっくりくる存在だ。メキシコは独裁制をやめてから中央政府がほとんど機能していないらしい。どうも南米とか中東では民主制はカオスを引き起こすだけなので、平和を望むなら独裁制が最適なようだ。
最近はイスラム国関連のシリア・イラク情勢がカオス過ぎて、メキシコ情勢は影が薄くなってしまったが、まだまだ追い続けたいトピックだ。
予告編
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